業界を知る2023年7月24日
プラスチックの水平リサイクルをめざして いま注目のブルーシートリサイクルの最新技術とは
三井物産プラスチックは、循環型経済への転換にスピード感を持って取り組むべく、2019年10月に環境関連素材を扱う「バイオ樹脂ユニット」を発足、取引先の方々と持続可能な社会の実現に向けた取り組みを進めています。今回は、さまざまな環境関連素材を扱うなかで出会ったパートナー、萩原工業株式会社のブルーシートリサイクルの事例をご紹介します。
ブルーシートメーカーが樹脂リサイクル機械を開発する理由
古賀:今回は弊社のパートナー企業である萩原工業の笹原さんに、ブルーシートリサイクルの取り組みについてお話を伺えればと思います。
改めて日本の現状ですが、政府から発表されているプラスチック資源循環戦略においては、2030年までに容器包装の6割をリユース・リサイクルする、そして2035年までに使用済みプラスチックを100%リユース・リサイクルする方針が打ち出されています。
それを踏まえて、プラスチックを扱う弊社にとっての大きな課題の一つは、いかに付加価値の高いリサイクルを行うかという点です。食品包装から自動車、電子材料にいたるまで、幅広い産業分野でプラスチックに関わる事業を行っているので、どの分野においても共通の課題となっています。
そこで、今回ご紹介する萩原工業のように、プラスチックリサイクルの研究開発をしている企業がますます大きな役割を担っていきますので、今回はぜひその取り組みをみなさまに知っていただきたいと思っています。
簡単にご紹介しますと、萩原工業は岡山県倉敷市で創業した会社で、もとは親会社である萩原株式会社が扱う畳表・花ゴザのタテ糸用のモノフィラメント繊維を製造する事業から始まったんですよね。
笹原:そうですね、1962年に花ゴザのタテ糸として、綿糸の代わりにポリエチレンを用いたことから始まりました。今はあらゆるものに使用されていますが、日本ではようやくポリエチレンやポリプロピレンが使われるようになったという時代です。これらの素材を用いてさまざまな繊維を製造するなかで、延伸テープの開発に成功し、それを「フラットヤーン」と命名しました。これが現在の事業の中核技術となっています。
古賀:フラットヤーンの誕生によって、ブルーシート製造につながるわけですね。現在の萩原工業の主幹事業の一つがブルーシート製造ですが、プラスチックのリサイクルを行うようになったのは、どのような経緯があったのでしょうか。
笹原:まず、フラットヤーンを製造するためには産業機械が必要ですが、当時はそのような機械がなかったので、社内で機械を一から製造していたのです。つまり製品の製造と、そのための機械の製造、両方事業として行うようになったわけです。
あるとき機械製造の技術スタッフと話していると、もし自分たちが製造しているブルーシートが、いつか会社に返ってくる時代がきたらどうするか、という話題が出ました。うちの製品はかなり長持ちするよう頑丈に作ってはいますが、もちろんいつかは廃棄されます。ブルーシート製造の国内トップ企業として、使用済みのブルーシートに対しても責任があるのではないか、と。この会話がきっかけとなり、社内でプラスチック再生機を作ろうということになったのです。
古賀:製造する側の責任として、廃棄されたあとまで考えるというのは素晴らしい考えですよね。しかも機械から開発しようとするのが合成樹脂製品とエンジニアリングの両事業を有されている萩原工業らしいと思います。
リサイクルのなかには「水平リサイクル」という考え方がありますが、近年は製品を製造する側にとっても重要な考え方になっています。萩原工業は自社商品の水平リサイクルに挑戦している点で稀有な会社ですね。
「水平リサイクル」とは?
水平リサイクルとは、製品をリサイクル前と後で用途を変えずに再生させることを指す。使用済みペットボトルから新たなペットボトルを作るのが代表例。 一方、使用済みペットボトルから衣服の繊維を作るなど、リサイクル後に用途が変わる手法を、カスケードリサイクルと呼ぶ。カスケードリサイクルは比較的資源の寿命が短くなると言われているが、水平リサイクルは資源を長く使い続けられるとして、循環型社会の形成のために有益だと言われている。ただし衛生面や品質、コストなどクリアすべき課題も多い。
使用済みシートの洗浄・ろ過、分離の難しさに試行錯誤
古賀:ブルーシートのリサイクルのために、まず何に着手されたのでしょうか。
笹原:大きく二つの作業がありまして、ひとつは使用済みブルーシートの分析、もう一つはリサイクル技術の開発と深耕です。
まずブルーシートの分析のため、ホームセンターの店舗で使用済みブルーシートの回収キャンペーンを行いました。そこで複数のメーカーの、劣化度が異なるブルーシートをたくさん集めることができました。それらを分析してみると、紫外線による劣化や、砂、土、木、草、塗料などの付着が見つかり、リサイクルのためには異物を除去し、製品化できるレベルまで品質を改善する必要があることがわかりました。
古賀:なるほど、使用済みブルーシートを素材として使うには、まずは付着物を除去することがスタートなんですね。そのための機能を装置に搭載したのでしょうか?
笹原:そうですね。リサイクルのためには、洗浄、分離、濾過、改質という工程を機械で行う必要がありました。元々当社では、1986年からドイツの濾過装置メーカーと提携して機器の国内販売を行っており、濾過技術を用いたプラスチックのリサイクル装置を作っていました。そこで、その技術を深耕させると同時に、既存装置の前後に必要な機能を搭載した関連装置を組み合わせ、調質・改質機能を有したブルーシートのリサイクル装置を作ったのです。ちなみに、本設備の製造については「経済産業省 令和3年度補正廃プラスチックの資源循環高度化事業」に採択されました。現在は、前工程の洗浄、分離の技術開発を始めています。
古賀:既存の機械に新たな装置を加えて、自社用に作り替えたということですが、どのような点に苦労しましたか?
笹原:実は回収キャンペーンで集めたブルーシートの多くは輸入品だったんですね。国内で流通するブルーシートの約90%は輸入品で、我々が製造するブルーシートと違い、原料や添加剤が不明で、耐候性能に劣るという特徴がありました。また、炭酸カルシウムの量が当社の製品より多いため、リサイクルの工程で物質同士が再凝集によって異物化してしまい、再生ペレットから糸にする工程でフィルムが破れたり、糸が切れたりしてしまうんです。
リサイクル装置はできたものの、輸入製品では実現が困難。それが一番の壁として我々に立ちはだかりました。そこで少し方向転換し、まずは自社製品のリサイクルから実現させることにしたのです。
古賀:確かに輸入製品は材料も異なり、変数の要素が多そうですね。まずは全成分を把握している自社のブルーシートリサイクルを成功させ、その後に他社や海外のものにも挑戦するという戦略に変更されたということですね。
笹原:はい。結果的にそれが奏功し、使用済みブルーシートから作られた再生原料を25%以上含有したブルーシート「Tarpee Re VALUE+シート #2500」が、2023年に完成しました。5月にエコマークも取得し、まずは建築工事用シートとして、提携する事業者様へ販売します。
古賀:「Tarpee Re VALUE+シート #2500」という商品名にも、水平リサイクルへの思いが込められていますね。
プラスチック製品の製造から統一することでリサイクルの効率化を
古賀:プラスチックの問題が注目されるようになってから、萩原工業のようにリサイクル技術の開発に取り組む企業も増え、この流れはどんどん加速していますね。
笹原:ブルーシートのリサイクルに挑戦するなかで痛感したのですが、そもそも製品の規格が統一されていれば、ここまで苦労することなく、もっと効率よくリサイクルできるはずなのです。どんなジャンルの製品も同じですが、製造側で規格を統一するのはマーケティング的な観点から非常にハードルが高いんですね。各社が独自性を出すために、さまざまな手法や材料を採用していますので。ただ、製造側もこのままで良いわけでは決してなく、変化が求められていると思います。
古賀:その通りですね。リサイクルを効率よく実現するためには、製造側への働きかけが非常に重要だと思います。それに加え、リサイクル製品を購入する側の意識や価値観も変えていく必要がありますね。リサイクルの定着しているヨーロッパなどでは、リサイクル製品は割高であることが認識され受け入れられていますが、日本では「リサイクルなのだから安いだろう」という意識が、まだ根強くあります。
笹原:我々はメーカーとして、ものづくりやリサイクルの分野で技術開発を精一杯しています。でも、選んでもらえなければ意味がないんですよね。
古賀:リサイクルを社会に受け入れてもらうために、私たち三井物産プラスチックができることも多いと考えています。今回のような萩原工業の取り組みは広く情報公開しているので、さまざまな分野の方からご相談が来ていますよね。このような取り組みを国内外にアピールしていくのも、私たちの使命です。今後も萩原工業とともに、プラスチックリサイクルの発展に貢献していきたいと思っています。
萩原工業株式会社 笹原 義博
特命役員 環境事業推進室 室長。1983年入社。
入社以降、エンジニアリング部門にて長く機械製品事業に従事。2015年から2022年まで取締役として、機械製品事業及び合成樹脂加工製品事業の運営を管掌。現在、特命役員として環境事業の推進をミッションとし、同社リサイクル技術の国内外への展開に尽力中。
古賀 晋一
産業材料本部 バイオ樹脂ユニット長。
1999年入社。ポリエチレン、ポリプロピレンをはじめとする各種合成樹脂原料、包装・物流・農業生産資材などの合成樹脂製品、硫酸・過酸化水素などの無機化学品原料を経験。本店、北海道支店、三井物産(香港)有限公司、四国支店などの勤務を経て、2019年10月1日付で新設されたバイオ樹脂ユニットにて、来たる脱炭素社会の実現に向けたバイオマス、リサイクル、生分解の各種材料・製品分野に従事。