素材を知る2024年3月8日
【PLUS MIRAI ウェビナー】
植物由来かつ生分解性を持つバイオプラスチック ポリ乳酸(PLA)が秘める可能性
日時 | 6月21日(水) 14:00-15:00 |
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登壇者 | 株式会社日本バイオプラスチック研究所取締役 代表研究員 所長 金高武志 様 三井物産プラスチック 産業材料本部バイオ樹脂ユニット長 古賀晋一 |
近年注目が集まっている生分解かつ植物由来のプラスチックであるポリ乳酸について、株式会社日本バイオプラスチック研究所取締役 代表研究員 所長の金高氏に講演いただいた内容を受け、受講者からたくさんの質問が届きました。こちらの記事では、金高氏と弊社の古賀とのトークセッションの様子をご紹介します。
ポリ乳酸(PLA)の肥料への応用の可能性
古賀:本日はポリ乳酸についてのご講演、ありがとうございました。受講者の皆様からご質問をたくさんいただいているので、お答えお願いします。
まず、有機JAS※の認証という農水省で定められている規格がありますが、ポリ乳酸は今後、日本の規格だけではなくヨーロッパの規格に合わせていくということはあるのでしょうか、というご質問です。
※農薬や化学肥料などの化学物質に頼らないことを基本として、農産物、加工食品、肥料、畜産物及び藻類に与えられる認証
金高:農業資材や農業分野では生分解樹脂はすでにたくさん使われているので、農水省のほうでも関心が高いでしょう。その外郭団体でも生分解樹脂に関しては非常に研究されているようです。現在は肥料法というなかなか厳しい法律があって、肥料のなかに何を入れてよいかというのが細かく定められているんですね。そもそも、この法律が制定された時代には生分解樹脂は想定されていないので、そこをどう折り合いをつけていくか、というのが課題になっています。
古賀:なるほど。先日、4年ぶりに海外の展示会に行ったときに、「バイオデグレーダブル(biodegradable=生分解性)」という言葉をほとんど見なくなり、代わりに「コンポスタブル(Compostable=堆肥化が可能)」という言葉になっていたのが印象的でした。今後はコンポスト可能というのも、認証の要素には加わってくるんでしょうか?
金高:そうですね、どこまで(法律の範囲に)入れるかについては検討が必要だと思います。ポリ乳酸は毒性がないことがわかっているのと、分解成分が植物の種類によっては栄養になることがわかっているんです。ただ、これは植物の種類によるので一概に言えないという面があります。どこまで法律の範囲に入るかは行政の管轄なので、私ども業界としては、必要なデータを提供するなどの後押しをしていきたいと思っています。
ポリ乳酸(PLA)のCO2排出
古賀:次は私からの質問で恐縮ですが、講演のなかで他の材料と比べたときの二酸化炭素の削減についてご説明がありました。
弊社の親会社が、CO2排出量の算定方法である「LCA Plus」※というサービスを提供しているのですが、先ほどのCO2削減量の数値には、このサービスにおけるScope3は含まれているのでしょうか?
※三井物産が提供する国内初の製品単位温室効果ガス(Greenhouse Gas)排出量可視化プラットフォーム
金高:Scope3とはなんでしょうか?
古賀:Scope3というのは、製品の原材料調達から製造、販売、消費、廃棄に至るまでの過程において排出される温室効果ガスの量(サプライチェーン排出量)のことを指します。ちなみに、Scope1は自社での直接排出量、Scope2は自社での間接排出量のことです。
先ほどのポリ乳酸のデータは、特にScope3ということではなく、御社で他素材と比較されたデータということでしょうか?
金高:先ほどのデータは「ゆりかごから墓場まで」ではなく、「ゆりかごから出荷ゲートまで」のデータですね。最初にプラスチック1㎏あたりでサトウキビが1,830gのCO2を吸収したところから始まります。収穫には燃料を使いますから今度はCO2が発生します。そこから砂糖を粉砕するのに風車を使ってミルを回すと、余剰なエネルギーが出るので、それを発電に流用してCO2が減ります。それから乳酸発酵、ラクチドオノマーを作り、ポリマー重合します。そこまでをすべて合わせるとCO2の排出量は501gです。そのあとに出荷されますが、どこまで運ばれるか、何年使われるかについては変動するため、こちらで算定できるのは出荷までということになります。
古賀:御社のタイのプラントから出荷するところまでということですね。
金高:そうですね。ですからサトウキビ畑から工場に運んでくる距離などによっても、排出量は異なります。そのため、PLAメーカーさんによっても微妙に数字がちがうはずです。
ただ私が見る限り、どの会社さんもそこまで大きな差はないのではないかと。おおざっぱに0.5kgと思っていただければOKです。
古賀:先ほどの講演のなかで、0.5kgのCO2排出をゼロにするという研究を進めていらっしゃるとおっしゃっていましたが、もし開示可能でしたらどのような研究か教えていただけますか?
金高:ポリ乳酸の生産プロセスで、最もCO2が発生しているのは乳酸発酵の工程です。乳酸発酵は本来CO2は出ないはずなんですが、効率よく乳酸発酵するためにバイプロダクツ、底流物の処理、そしてその運搬などにエネルギーがかかっているんです。それを出さない方法がすでに確立されていますので、そこがまずつぶせるわけです。もうひとつはサトウキビの収穫の効率を上げることですね。このふたつの山をつぶすと、CO2がほぼゼロに近くなるという研究がされています。
古賀:なるほど、素晴らしいですね。
では次のご質問ですが、PLAを使う場合と、樹脂を紙に変える場合とで、どちらがより二酸化炭素の削減になるか、またどちらが環境によいと言えるのか、というものです。
また、それと関連して私からもご質問させていただきたいのですが、今後ポリ乳酸でコーティングはできるのか、というものです。紙単体で発揮できる機能と、そうでない機能、たとえば撥水とか、そういうものにはラミネートが必要ですが、PLAのラミネートの可能性はどうか、というものです。
金高:最初のご質問についてですが、紙とPLAどちらがいいかは、一概にはお答えできません。というのも、紙は天然の木を切って削り、パルプを作って消費するわけですね。そのときにプロセスは少ないかもしれないけれど、結構な水や薬剤、それから熱が必要です。一方PLAは、熱はあまりかかっていないし、薬剤もあまり使っていません。ただ、恐らくプロセスは紙よりもはるかに長いので、どちらが環境にいいかというと、比べることはできないわけです。ひとつ言えるのは、使い方次第だということですね。世の中の常識からすると紙のほうが圧倒的に環境にいいとされていますが、実際にカーボンオフセットとかライフサイクルアセスメントを考えた場合には、どちらがいいかとは明言できないということです。
ただ、プラスチックと紙との組み合わせについては、PLAがよいと明言できます。例えばフライドチキンの包み紙や、雑誌の表紙などにはポリエチレンが貼ってあるはずです。こういったコート紙と言われるものは、現状はリサイクルできていません。というのも、コート紙をパルパーに入れてリサイクルするときに、通常はセルロースの紙の繊維はほぐれますが、ポリエチレンのフィルムは溶けないでフィルターに引っかかってしまうんです。そこにリサイクルの難しさがあります。
その点、ポリ乳酸ですとかPBS、こういったものはすでに紙コップに採用されています。これは脂肪族ポリエステルですから、加水分解してフィルターにはひっかからないわけです。このように、ポリ乳酸と紙の組み合わせで、リサイクルのポテンシャルが上がると思います。
古賀:やはり紙単体で機能発揮できる場合と、何かを補完しないといけない場合とかがあるということですね。PLAは100%天然由来ですし、紙との融合でもナチュラル度合いが高いということが一つの可能性として期待できますね。
他素材との比較におけるポリ乳酸(PLA)の優位性
古賀:他素材との比較についてご質問いただいているのですが、ポリスチレンとの比較で、PLAの成形性においては何か良し悪しなどはありますか、というご質問です。
金高:最終物性に関してはほぼポリスチレンと違いはありませんが、加水分解するか否かという違いがあります。ポリスチレンは加水分解しませんが、ポリ乳酸は空気中の水分で分解しまので、成形前に予備乾燥する必要があります。さもないと成形中に熱がかかって分子量が下がってしまうわけです。ポリスチレンはそれが不要ですね。
それから、ポリスチレンは溶融強度が低めですので、発泡とか押出、インフレーションのときには少し破れやすくなります。温度調整をしていただくとか、あるいは溶融強度を上げる添加剤を足すといった作業が必要になります。特に発泡に関しては、世の中の発泡の装置がほぼポリスチレン用に特化・最適化されているので、その辺のハードルがありますね。
古賀:機械をカスタマイズする必要があるということですね。
それから、耐熱性に対する質問を何点かいただいています。
近年、他社メーカーがPLAの改質剤を作るために増資をされたりするケースが見られます。耐熱性のあるポリ乳酸にさらに添加剤を加えると、理屈としてはもう少し耐熱性を上げられるものなのでしょうか、という質問です。
金高:耐熱性に限って申しますと、数段階あります。
まず、乳酸にはL-乳酸とD-乳酸というのがあって、今回ご提案しているポリ乳酸はL-乳酸だけで作ったものです。通常のポリ乳酸は結晶性がないので、熱湯をかけたらだめなんですが、L-乳酸だけを重合させたポリ乳酸(PLLA)というのは結晶化するので、105℃の温度でも軟化しないんです。メルティングポイントも175℃まであります。そこにさらにD体のポリマーを組み合わせたステレオコンプレックスポリ乳酸というものがあって、帝人さんが「バイオフロント」という名前で出していましたが、これで荷重撓み温度が230度くらい、融点が240℃くらいになります。
これがポリ乳酸単体の理論的限界で、これ以上耐熱を上げようとしたら添加剤しかないのですが、耐熱性が高い樹脂と組み合わせると、そちらに引っ張られてしまうんですね。それ以外に、例えば雲母や層状鉱物などの添加剤を加えると、熱を計ったときに板同士が干渉し合うので、見た目の撓み荷重温度を稼ぐ方法もあります。
古賀:ありがとうございます。次にリサイクルに関する質問も多かったので、お答えください。ポリ乳酸のメカニカルリサイクルの工程は、通常のプラスチック同様に粉砕・洗浄して、ペレット化するという形は可能なのでしょうか、というご質問です。
金高:はい、可能です。洗浄して破砕して、という工程ですね。ただ、ポリ乳酸は使用している間に生分解しますので、物性が落ちています。そのため、リサイクルするなら強度が求められるものではなく、強度が低くて済むものにするとか、あるいはバージンのPLAとのコンビネーションで再資源化するとか、三層構成するとか、そういった工夫が必要になります。
ただ現状では、ポリ乳酸のごみはそれほど出ていないので、PLAだけ集めてくるというのは結構難しいでしょうね。
古賀:なるほど。確かオーストリアではポリ乳酸は水平リサイクルされているんですよね。韓国では全量リサイクルリペレットではなくて、確か30%ほど混ぜてマスバランス方式※にしているとか。
※特性の異なる原料が混合される場合に、ある特性を持つ原料の投入量に応じて生産する製品の一部に、その特性を割り当てる手法
金高:私どもの工場では、ポリ乳酸製品で、良品になる前後のB級品などをケミカルリサイクルしてきました。それからタイの工場周辺では、飲料ボトルメーカーさんに収めた分や、そちらで出た端切れ品を集めてケミカルリサイクルをしています。
わざわざリサイクルする理由としては、今ご質問にあったように、マスバランスのためですね。現在では乳酸発酵にはCO2が結構出るのですが、その分をリセットできるということで、ケミカルリサイクルのものもマスバランス方式が採用されています。
日本ではまだポリ乳酸製品を集めて回収するスキームができていないので、販売も回収もこれからという状況ですね。
古賀:ありがとうございます。
次に、サンプルをご提供いただく場合はフィルムの形になりますか、というご質問をいただいているのですが、こちらはまず私のほうでお答えいたします。
トタルエナジーズ様はメーカーですので、サンプルはペレットの形になります。フィルムをご希望の場合は、私ども三井物産プラスチックでも扱っていますし、あるいは私どもが出資している台湾の生分解性プラスチックコンパウンド・加工メーカー MINIMA TECHNOLOGYでも扱っており、二軸延伸フィルムというものが選択肢としてあります。
このフィルムの厚みの範囲は結構広くて、ペットフィルムとちょっとレンジが被るんですよね。
金高:
そうですね、10ミクロンくらいから100ミクロンくらいのものもあります。だいたい機械が同じですので、二軸延伸フィルムは押出で作っています。インフレーションでもできるんですが、ちょっと技術が必要になりますね。
ちなみに弊社も中国で長塑(チャンスー)という世界一のナイロンフィルム会社と提携しています。向こうではチャンスー経由で作っていますが、日本でもPLAフィルムを作っている会社はありますので、ご希望あればご紹介いたします。
古賀:最後のご質問ですが、PLAの価格は今後変わっていくのでしょうか、というものです。開示できる範囲で結構ですのでお答えいただけますか?
金高:価格については、ずばりはわかりませんが、下がる見込みはあります。根拠としては、さきほどポリ乳酸を作るのに、砂糖1.6kgが必要という話をしましたが、砂糖は取引単位がだいたいセント/ポンドなんですね。ドルじゃなくて、セント。現在はポンドあたり18セントから20セントくらいだと思います。
これを踏まえると、ポリ乳酸1kgの原料コストっていうのは極端な話、ナフサで作っているPPとあまり変わらないはずです。ただ、今高いのは取り合いをしているからなんですね。それから、製造規模がまだ小さくて色々なコストが乗っているから。これさえクリアしてしまえば、値段は下がるはずなので、恐らく200円台にはなるのではないでしょうか。ポリ乳酸の生産コストは基本的には安いので、みなさんが沢山使えば絶対に値下がりします。
古賀:ありがとうございます。今日はかなり質問が多く、みなさんの関心が高いことがわかりましたので、またこの講演の続編をやってもよさそうだなと個人的には思っています。
今日は本当に貴重なお話、ありがとうございました。
金高:ご質問がございましたら、メールでお応えしますのでご連絡ください。ご清聴ありがとうございました。
金高 武志様
株式会社日本バイオプラスチック研究所取締役
代表研究員 所長
古賀 晋一
三井物産プラスチック株式会社 産業材料本部 バイオ樹脂ユニット長
1999年入社。ポリエチレン、ポリプロピレンをはじめとする各種合成樹脂原料、包装・物流・農業生産資材などの合成樹脂製品、硫酸・過酸化水素などの無機化学品原料を経験。本店、北海道支店、三井物産(香港)有限公司、四国支店などの勤務を経て、2019年10月1日付で新設されたバイオ樹脂ユニットにて、来たる脱炭素社会の実現に向けたバイオマス、リサイクル、生分解の各種材料・製品分野の取組に従事。