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    植物由来かつ生分解性を持つバイオプラスチック、ポリ乳酸(PLA)の基礎知識

pic素材を知る2024年3月8日

【PLUS MIRAI ウェビナー】
植物由来かつ生分解性を持つバイオプラスチック、ポリ乳酸(PLA)の基礎知識

日時 6月21日(水) 14:00-15:00
登壇者 株式会社日本バイオプラスチック研究所取締役
代表研究員 所長
金高武志 様

バイオプラスチックが注目される昨今、生分解かつ植物由来のプラスチックであるポリ乳酸(PLA)へのニーズが高まっています。そこで今回は、株式会社日本バイオプラスチック研究所取締役 代表研究員 所長の金高氏に、ポリ乳酸の基礎についてご講演いただきました。

1.トタルエナジーズコービオンとは

PLA専業メーカーのトタルエナジーズコービオン


本日の講演では、ポリ乳酸の基礎について皆様に簡単にお話ししたいと思っています。より詳しい内容が知りたい場合は、三井物産プラスチックを通してご質問いただければお答えいたします。
まず弊社のご紹介からさせていただきますと、トタルエナジーズコービオンは、フランスの石油メジャーTotal社と、オランダの乳酸発酵メーカーCorbion Purac社とのジョイントベンチャーで、現在は植物由来かつ生分解プラスチックであるポリ乳酸の専業メーカーです。


資本はヨーロッパですが、ポリ乳酸の原料は糖分ですので、砂糖がたくさん採れるタイに生産拠点である工業があります。私共の工場の隣には親会社の乳酸工場があり、ここで砂糖から乳酸を生産しています。そこからパイプ直結で乳酸を引っ張ってきて、ポリ乳酸を作っているわけです。現在は年間7万5,000トンの生産能力で、世界第2位、アジアでは第1位の生産規模になっています。

2.バイオプラスチックとは何か

ポリ乳酸は植物由来かつ生分解性プラスチック


ではさっそくポリ乳酸のご説明に入りたいと思います。
まず、ポリ乳酸はサトウキビの中の砂糖を発酵して乳酸を作り、その乳酸を重合してプラスチックにしますので、植物由来のプラスチックです。また、ポリ乳酸は通常、ごみになるときに燃やさなくても地面に埋めておけばバクテリアが分解してくれるので、生分解性樹脂でもあります。そのため、ポリ乳酸は植物由来かつ生分解性プラスチックだと言えます。

一方、最近巷ではバイオプラスチックという言葉がよく使われるようになりましたが、これは植物由来と生分解性の和集合になります。よく勘違いされるのが、石油由来だから生分解しないとか、植物由来だから生分解するとか言われる場合があるのですが、実はそれは関係ないんですね。例えばレジ袋に使われているバイオポリエチレン。これは植物から作られているので、非常に環境に良いのですが、生分解ではありません。あるいは石油から作られているポリブチレンサクシネートは生分解します。たまたまポリ乳酸は植物由来かつ生分解性だというだけなんですね。

バイオプラスチックは環境によいのか

また最近では、全ての樹脂製品にバイオプラスチックを使うべきだという声がよく聞かれるのですが、なぜ従来のプラスチックに比べて良いのかというと、実はサイエンスの問題ではなく、倫理学の問題なのです。
例えば、植物由来のプラスチックですと、石油を掘らなくてよいのでわざわざ遠いアラブの国から運ぶ必要がないことや、掘らずに地上資源で作れることは倫理的に良いと言えます。そして何より、植物でできているということは、少し前まで空気中にあった二酸化炭素を光合成で固めて作ったプラスチックなんですね。そのため燃やすとCO2は出ますが、それは以前空気中にあったものであり、CO2を増やしているわけではないと言えるわけです。
一方石油の場合、シダ植物などのバイオマスでできているのですが、これは一億年の歳月をかけて地面の奥底に閉じ込められた炭素です。それを掘ってきて燃やすと二酸化炭素は増えますよね。ですから、一回使っただけで燃やしてしまうような用途には、石油由来のプラスチックではなく、植物由来のプラスチックのほうがよいでしょう、というアプローチになるわけです。

それから生分解性の場合は、直接温暖化ガスとは関係ありません。極端な話をすると、燃やしてもバクテリアが分解しても、発生する二酸化炭素の量は一緒なわけです。ただ、生分解性プラはごみ問題の解決という点で役に立ちます。例えば農業用フィルムや、林業で使うテープや保護ネットなど、使うときはいいが回収に非常に手間がかかるようなものですね。こういったものの回収にエネルギーをかけるより、そのまま無害のものに分解してくれたほうがありがたいですよね。そのため、農業、林業、土木、それから海洋土木や水産といった分野で力を発揮することが大きいと言えます。

ところで、ここでみなさんに質問です。
飲料用水のペットボトルを作るとして、PLA(ポリ乳酸)に置き換えたいけれど、現在は物性が不十分だし値段も少し高いという課題があります。そのため、半分PLA、もう半分をPET(ポリエチレンテレフタレート)にするのは意味があるでしょうか?

通常このアンケートをとると、だいたい意味ある・ないの割合は半々くらいになります。ちなみに意味がないという方の理由としては、「半分PETなら生分解しないから」というもので、確かにその通りです。生分解を目指すのであればPETはだめですよね。PLAのほかに、例えばPBSやPBATなど、とにかく生分解するものだけで設計する必要があります。

ところが、PETを半分にしているということは、石油の使用量を減らしているということになります。そのため、これは温室効果ガスの削減という観点では充分に意味があると言えます。

つまり、生分解を目的とするなら生分解性のものだけで材料構成する必要があり、温室効果ガス削減を目的とするなら、必ずしも100%植物由来でなくてもかまいません。例えば樹脂自体が50%植物由来のものでもよいし、従来のプラスチックにポリ乳酸のような植物由来のプラスチックを混ぜても構いません。あるいは最近はお米の粉を混ぜたライスレジンといったものも非常に人気があるようです。一概にこれが良い、というのではなく、目的に合わせた材料を選択すべきであるというのが私の言いたいことです。

3.ポリ乳酸(PLA)はどのように作られるか

バイオとケミカルの力でできるポリ乳酸(PLA)


次に、ポリ乳酸ができるプロセスについてお話します。
ポリ乳酸の原料である糖分、つまりデンプンは多糖類で、直接乳酸菌しかできませんので、これをまず酵素などで分解し、単糖類、二糖類にします。ちなみにサトウキビを使った場合は最初からショ糖がでますから、この分解プロセスはつきません。糖分を乳酸菌に加えて、乳酸菌が発酵することで、乳酸ができます。これはヨーグルトを作る工程と全く同じです。

ここまでがバイオの工程で、ここから先は化学の力で重合し、ポリ乳酸を得ます。最後の部分が化学の力でやっているというのがミソで、もし最初から最後までバイオでやってしまうと、バイオの気分次第で質が変化してしまう。最後にケミカルのフェーズが入ることで、分子量などが私たちの好きなように制御できるというわけです。


では次に、ポリ乳酸の化学構造を見てみましょう。ちょっと難しい話になるかもしれませんが、上図の右下にあるポリ乳酸、つまりポリ(Lラクチド)の構造ですが、見ての通りポリエステルです。他にもポリ(ブチレンサクシネート)やポリ(カプロラクトン)など、いわゆる生分解のものがありますが、いずれも脂肪族ポリエステルです。植物から作っていようが、生分解しようが、構造的には従来のプラスチックですから、加工や改良方法などは従来のプラスチックのものを適用できるのです。


次にポリ乳酸の物性についてですが、上から4段目「Mechanical」を見てください。Tensile modulus、Tensile strength、Elongation at breakとあるところですね。見ていただくと、大体これはポリスチレンのほうに近いです。ポリスチレンと化学構造は全く違いますが、イメージとしてはバイオポリスチレン的なポジションで、ポリスチレンでできているものはだいたいポリ乳酸で置き換えが可能です。

ポリ乳酸の耐熱性グレード



こちらはポリ乳酸の耐熱性グレードを示す表です。グレードは覚える必要はありませんが、真ん中のものが通常のポリ乳酸で、耐熱性はありません。そのため、イチゴパックやアイスクリームの容器など、押出成形で耐熱性のないものに使います。
左に行くと、耐熱性があるものになります。コンビニ弁当の容器などに使われますものですね。このように、使用環境とどういうプロセスで成形するかによって、自動的にグレードが決まるというわけです。

4.ポリ乳酸(PLA)の二酸化炭素排出量

ポリ乳酸(PLA)への置き換えでCO2削減


こちらの資料、上のグラフはプラスチック1kg作る際に出るCO2排出量を示しています。PS(ポリスチレン)2.2kg、PLA(ポリ乳酸)0.5kgとなっているので、ポリスチレンを悪者にするわけではないのですが、今お使いのポリスチレン1kgをPLAに置き換えた場合、差し引き1.7kgのCO2削減ができるというわけです。また、PETをお使いであれば、PLAに置き換えた場合、1.5kgの削減になります。
ちなみにポリ乳酸のCO2排出量は現在0.5kg、501gに相当しており、これは生産工程で熱をかけたり、サトウキビを刈り取ったりなどの分のエネルギーが必要になっているからですが、すでにプロセスの改良の余地は見えているので、近いうちにゼロになる見込みです。ですから近い将来、PETをPLAにすれば、2kgのCO2が減らせると言えます。

一方下のグラフは、プラスチック1kgを作るのに、砂糖がどれくらい必要かというグラフになります。
いま市中に出回っているものとして、ペットボトルに使われているバイオPET、それからレジ袋に使われているバイオPE(ポリエチレン)、そしてPLA(ポリ乳酸)があります。ポリエチレンを作るのに砂糖4kgが必要なのに対して、ポリ乳酸であれば1.6kgで済みます。だいたい3分の1ですね。ですから同じ面積であれば、ポリ乳酸はポリエチレンの3倍作ることができ、極めて効率がよいと言えます。ただし、ポリエチレンの代わりにポリ乳酸を使ってくださいというわけではありません。全て物性が異なりますので、適材適所なのです。

5.ポリ乳酸(PLA)で作った容器の耐熱性と生分解性

様々な用途が可能なポリ乳酸(PLA)製品


次に、従来のプラスチックからポリ乳酸へと置き換えた事例をご紹介します。まずは耐熱性の必要ないものになります。
左上の写真がヨーグルトカップ、その隣はコンビ二で売っているサラダの容器ですね。それからレジ袋、これはポリ乳酸が主成分ではなく、PBATやPBSが主成分になっています。柔らかすぎるとネックになるためですね。
それから左下の写真は、10年くらい前にスーパーで売られていたピーマンのパックです。こういった個包装のものではなくて、5個入りのものとかですね。これはけっこうパリパリとした音がしたと思いますが、あれはポリ乳酸です。その隣は畑に引くフィルムですね、これもレジ袋と同じで、だいたいPBAT・PBSが主流です。分解が早すぎるとか柔らかすぎるという理由で、PLAを少しブレンドして使うのがトレンドのようです。ここに記載しているのは全て耐熱性がいらないものばかりです。


次は耐熱性が必要なものへのポリ乳酸の置き換え事例です。
従来のポリ乳酸は耐熱性がなかったのですが、現在は改良され、耐熱性がグレードアップしています。そこで、資料にあるようにノートパソコン・タブレットの筐体や、シェールガスのフラッキング(水圧破砕法)に使われる補修台、それから3Dプリンターのフィラメントにも使用されています。3Dプリンターには一般的にABSフィラメントが使用されているのですが、こちらのほうがPLAより圧倒的に物性が優れているものの、熱分解すると毒ガスが発生するんですね。これに対しポリ乳酸はポップコーンのような香りがするので、ご家庭用には安心かもしれません。

55℃を超えれば分解するポリ乳酸(PLA)


次にポリ乳酸の生分解性についてお話します。
みなさん生分解性プラスチックはどこでも分解するんだろうと思われるかもしれませんが、実はそんなことはないんですね。生分解というのは人間が処理する代わりにバクテリアに分解してもらうわけですから、バクテリアの種類やご機嫌次第なのです。バクテリアがハッピーな環境であればじゃんじゃん分解しますし、そうじゃないところでは分解に時間がかかります。

例えば農村センターにある堆肥場は、だいたい70~80度の温度で発酵がかかっています。結構すごい臭いがするんですね。そこでしたら、PLAでできたボールペンがだいたい1~2週間、長くても2か月で分解できます。温度にもよりますが、完全に水と二酸化炭素に分解し、跡形もなく消えてしまいます。一方、畑に植えた場合は1~3年ほどくらいかかります。ですから一昔前、生分解性プラスチックが流行ったときに、小学校の自由研究で多くのお子さんが生分解に取り組んだんですが、夏休みにやると失敗していました。少なくても分解までに1年はかかりますので、夏休みの2か月では分解しないんですね。
また、運悪く海水中に流れてしまった場合は、分解に5~15年かかると言われています。ポリエチレンが100万年くらいと言われていますから、それに比べればはるかに短いと言えますが、これは意図せずに流れてしまった分が幸いにして分解してくれましたよ、くらいの話であって、積極的に分解を狙って投棄するのは禁止されています。

それから温度設定ですが、良い菌がいれば比較的温度が低くても分解しますが、最低でも55℃を超えれば分解するとされています。55℃というのがポリ乳酸のガラス転移点ですね。これを超えると結晶化がゆるくなって分解するというわけです。

6.ポリ乳酸(PLA)で作った製品の事例

食器からサーフボードまで幅広く活用が可能


ここからは、近年のポリ乳酸製の具体的な製品をご紹介します。
まずこちらは、世界を驚かせたポリ乳酸製シャンパングラスです。意外と加工しにくくて薄肉は難しいのですが、この時のデータが0.65mmと非常に薄肉に成功。こちらはアフリカ開発会議でオフィシャルなシャンパングラスとして使われました。日精樹脂工業さんという会社がこれに適した装置を作っておられます。


こちらは2021年ドバイ万博で、VIP用ギフトとして配られた会津塗りの酒器です。本来は欅の木に漆を塗って絵付けをするのでしょうが、安物はもちろんプラスチック製です。これはプラスチックなんですがポリ乳酸を使って射出成型をして、本物の会津塗の職人さんが絵付けをしています。こちらは一つ数千円くらいでインターネットで買えます。三義漆器店という会津若松の会社さんが作ってらっしゃいます。私もいくつか持っていますが、大変いい具合で酒がおいしいですよ。


こちらは昔からある古典的な用途なんですが、ティーバッグです。特にこのプラミッド型のTパックは昔からありまして、日本で作っているのは山中産業さんと大紀商事さんですね。
中身がお茶葉ですから、生ごみになります。そのため、包装も生分解すればいいよねということでPLAが用いられています。今はもちろんプラスチックを生分解させる仕組みというのはインフラとしてないのですが、これから整備されていくといいですね。キャンプ場で埋めても問題ないでしょう。例えばポリプロピレンなどは酸化防止剤が入っていてちょっと匂うのですが、ポリ乳酸というのは酸化防止剤が入っていないので、お茶の風味を損なわないということでもティーバッグにぴったりのようです。


こちらはマスクの事例です。そろそろマスクする人も減っているでしょうが、たまに地面に落ちてますよね。これはポイ捨てしているわけじゃなく、ポケットなどからポロっと落ちているのではないかと思っています。そんなわけで悪意なく環境中に流出しがちなので、できれば生分解してほしいですよね。それにマスクは使ったら燃やしてしまうので、燃やすんだったら石油じゃなくて植物由来がいいでしょうということで、ポリ乳酸を使用しています。


ポリ乳酸ではだいたい押出シート、糸、射出成型、発泡はできますので、結構色々なものが作れます。こちらは発泡の例ですが、お弁当の断熱容器やコーヒーカップ、それから3Dプリンターのフィラメント、サーフボードなんかもできます。サーフボードのリブをPLAの3Dプリンターで作って、さらに板、プレートを合わせてという感じで作るんですね。去年の秋のドイツ・ジュッセルドルフで開催された展示会で、PLAのサーフボードが展示されていました。


こちらは植樹ポッドですね。植物を植える際に、ケースから引っこ抜いて植えるのが通常ですが、それだと手間がかかるしゴミも出るので、生分解できるポッドごと植えれば、だんだん分解して根っこが広がっていきます。すぐに分解する必要はないので、特に暖かい地方で非常に使われています。日本では確か不織布タイプのポッドが作られていたと思います。

7.ポリ乳酸におけるリサイクル

メカニカル・ケミカルリサイクルが可能


最後にポリ乳酸製品のリサイクルについてお話します。
ポリ乳酸も従来のプラスチック同様に、洗って刻んでもう一回再生することが可能です。ポリ乳酸製イチゴパックから畑のフィルムを作ることなどもできます。
ただ、本質的に生分解しますので、リサイクルするたびに劣化していきます。ですからいっそのこと、モノマーに戻してしまったほうがよいという見方もあります。
また、ケミカルリサイクルとして、乳酸まで戻して再重合すれば、理論的にはバージンのポリ乳酸と同じクオリティのものができます。このようなわけで、メカニカルリサイクルも可能です。
それから、燃やす前にバイオガスとしてメタンガスを採ることも可能です。最悪の場合、燃やしてしまっても、CO2はもともと空気中にあったものなので、カーボンフットプリントとしては非常に地球に優しいと言えるわけです。

以上がポリ乳酸の概論です。今回は基礎編ですので、応用編のリクエストがありましたらお声がけいただければ、もっと詳しいお話ができると思います。ご質問等ございましたら三井物産プラスチックさんまでお問合せください。

PROFILE
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金高 武志様
株式会社日本バイオプラスチック研究所取締役
代表研究員 所長

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