Project Storyフィルムの高付加価値化で、
ビジネスを勝ち抜く
先端材料本部
機能フィルムユニット
木村 浩司(2007年入社)
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- フィルムの高付加価値化で、ビジネスを勝ち抜く
信頼性の高い日本製フィルムを台湾のパネル加工会社へ
- 木村浩司は入社以来、液晶パネル関連のフィルムに携わってきたが、2009年の春頃から、とくにタッチパネル向けのフィルムを扱うことが目立つようになったという。アメリカでのアップルのiPhone発売が2007年、グーグルのAndroid端末の発売が2008年で、木村のビジネスの変化はまさにスマートフォンの世界的な普及と軌を一つにしている。
「タッチパネルには、指が触れたことを感知することで電流を流すフィルムがあるのですが、そのフィルムを傷から守る”コーティングフィルム”が最初の主な商材でした。当時、ベースとなるペットフィルムの上に数ミクロンの薄さで、しかも均等に特殊液を塗る技術は日本のメーカーにしかなくて、そのコーティングされたフィルムを台湾のパネル加工会社に販売していました。私自身、毎月台湾に出張して新規顧客の開拓に努めましたが、何よりもスマートフォンの急速な普及のおかげで、最盛期には月の販売金額が当初の10倍ほどまで伸びました」
後続メーカーのキャッチアップを想定し、常に次を考える
- ミクロンの世界の話であり、コーティングの均一性や傷、不要な残留物の有無などは一見してわかるものではない。しかしパネルを納めた後の工程で厳密な機械による受入検査があり、そこで不良が見つかればはじかれてしまう。その部材を納めたパネル加工会社の信頼にも関わるため、木村の紹介する「間違いのない」日本製のコーティングフィルムは引っ張りだこになったのである。
しかし、後続の会社が技術力を高め、いつかキャッチアップされるのはこの業界の常。3年も経たないうちに木村が扱ってきたものと同様の品質を備えたコーティングフィルムが韓国や台湾、中国のメーカーからも供給されるようになった。価格競争も厳しさを増し、従来のままでビジネスを続けるのは難しくなった。もちろんそれは木村も想定済みで、すでに国内のコーティングメーカーに対して、新たな付加価値を持ったフィルムの開発を提案し、推し進めていた。
「詳細はお話できないのですが、コート面の上にさらに数層のコーティングを加え付加価値を高めたものです。コーティングフィルムの営業活動で台湾のパネル加工会社を定期的に訪問し、スマートフォンの販売が急速に伸びる中国本土にも足を運んで市場の動向を読み、他社の先を行くフィルムとして日本のメーカーに開発を提案しました」
新たな製品の開発で味わった「先の見えない苦労」
- 木村が取り組んだ、通常のハードコートのさらに上を行くフィルムの開発は、2年以上かかってようやく販売に至った。試作は優に20回を超えたというから、相当困難な仕事だったようだ。
「”先の見えない苦労”を味わいましたね。納品先のメーカーが色々な測定項目を定めているのですが、例えば20の項目の中で3番の項目に問題が出たので改良すると、今度は8番の項目に問題が出る。それを直せば15番の項目に問題が出るという形で、一時はこの開発作業に終わりはあるのだろうかと不安にもなりました」 しかし、その粘り強い努力は無駄にはならなかった。確かに長い時間はかかったが、木村たちが苦労して作り上げたより高機能なコーティングフィルムは、競合の先を行く部材としてスマートフォンに使われつつある。
中国で人気が高まる、ガラス製の保護フィルム
- こうして新たなコーティングフィルムの開発を続けている間、木村は別の新たなビジネスにも乗り出そうとしていた。台湾のパネル加工会社への訪問や中国への視察を通じて市場の動向を読む中で、今後拡大が期待される新たな商材の情報もキャッチしていたのである。
「ユーザーが自分でスマートフォンに取り付ける”アフターパーツ”と呼ばれる分野の商材で、ガラス製の保護フィルムです。2年ほど前、台湾のメーカーとミーティングをしていたときに、中国本土のパネル加工会社の間でアフターパーツへの興味が広がっている、という話を聞いたのがきっかけでした。そこで中国のアフターパーツ市場を調べてみると、ガラス製の保護フィルムの人気が高まっていると知り、国内のメーカーに商品開発の話を持ちかけました」
今や世界No.1のスマートフォン市場となった中国では、廉価な製品を供給する現地メーカーがその成長を牽引しており、中国国内にも200社を超えるパネル加工会社があるという。しかし価格競争が厳しさを増すとともにメーカー向けのパネルは採算が合いにくくなっており、パネル加工会社が活路として注目したのがアフターパーツ市場だった。
中国。それは木村が所属する機能フイルムユニットとしても、開拓に力を注ぎ始めた市場だった。
クッションの役割も果たす粘着フィルム
- 正確に言えば、木村が開発に着手したのはガラス製保護フィルムに用いる「粘着フィルム」である。いわば両面テープのようなもので、コーティング同様、粘着剤を均一に塗工する技術で日本のメーカーに一日の長があった。 「やっかいなのは、一方の面は薄く、その反対の面はかなり厚く粘着剤を塗らなければならないことでした。厚く塗った面が、ユーザーが自分でスマートフォンに保護フィルムを貼る際の”糊”になるのですが、同時にこれがタッチパネルと保護フィルムの間でクッションの役割も果たすので、ある程度の厚みが必要になります。また、それぞれの面で粘着剤の成分も変わります」
実はこの時点で、粘着フィルムの販売先が決まっていたわけでない。今後の需要拡大を見据えて、木村は粘着塗工メーカーとともに開発を進めていたのである。そしてある日、中国のパネルメーカーから問い合わせが舞い込んだ。メールで届いたその文面はかなり抽象的なものだったが、木村は「ガラス保護フィルム用の粘着材料を求めている」とすぐにわかったと言う。そうして彼らの開発は、具体的な商品化に向けた作業へ進むことになる。
付加価値をアレンジすることが商社の使命
- 「私たちが進めてきた開発の進み具合と、中国のパネルメーカーからの問い合わせのタイミングがうまく合致したのだと思います。何度か試作・評価を繰り返しましたが、この粘着フィルムは比較的順調に商品化に至りました」
中国・華南地区のあるエリアには、小さな電気・電子部品店が集まるビルがある。4畳ほどのスペースで営業している店が独自のスマートフォン用アフターパーツを販売していることも多く、木村はそうした場所に足を運ぶ機会も持つようになった。
「2フロアに100社以上のパーツ屋さんが入っているようなビルで、粘着フィルムの紹介に回ったこともあります。お店の人が商品を実際に製造している加工会社を紹介してくれ、新たな取り引きが生まれる可能性もあるんです」
台湾では、最初に訪れたときには小さな会社だったのに、わずか3年のうちに台湾の業界でNo.1になった企業を見た。「変化があまりにも速い世界だから、情報は常に色々な所から幅広く取らなければならない」と木村は言う。
粘着フィルムの拡販を始めたばかりだが、すでに次の有望な商材もキャッチしているようだ。
「フィルムは加工を加えることで様々なものに変化します。その変化をどう付けるのか、付加価値をどう付けるかをアレンジするのが私たち商社の使命だと思っています。次のフィルムは、少し面白い角度から付加価値を狙うことになりそうです」