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pic業界を知る2023年9月4日

紙パックなどの複合材料のリサイクル技術のいまを語る。 プラスチック食品容器の脱臭実現に向けた動きも

前回の記事「プラスチックの水平リサイクルをめざして いま注目のブルーシートリサイクルの最新技術とは」でもご紹介した、パートナー企業である萩原工業に、今回は紙パックなどの複合材料リサイクルの取り組みについて伺いました。リサイクルだけでなく脱臭技術にまで発展させたその経緯をご紹介します。

紙だけでなくプラもアルミも。紙パックなどの複合材料特有の難しさ

古賀:改めてご紹介しますが、今回お話を伺う萩原工業は、もともと弊社のお客様であり、現在はパートナーとして共同研究などでタッグを組んでいる企業です。プラスチックリサイクルの先進的な取り組みをされているため、笹原さんには弊社サーキュラーエコノミー委員会主催の社内勉強会でも講演を行っていただくなど、多方面でご協力いただいています。
さて、前回はブルーシートのリサイクルの取り組みについてお話を伺いましたが、今回は複合材料リサイクルの取り組みについてご紹介したいと思います。
そもそもブルーシートのメーカーである萩原工業が複合材料リサイクルに着手したのは、ブルーシートリサイクルの研究成果を広く公開しており、それを見た企業から相談いただいたことがきっかけでしたよね。

笹原:そうですね、ブルーシートリサイクルの情報を公開したことで、多層フィルムや各種貼り合わせ製品などをはじめとする、複合材料製品のリサイクルに関する相談や問い合せも増えてきました。

古賀:萩原工業では、ブルーシートのリサイクルのための装置を自社開発しているので、プラスチックリサイクルに関して悩みのある企業からたくさん問い合わせが来るのでしょうね。

笹原:印象としては、弊社の事業と完全に同じ分野というよりは、今のプラスチック業界全体に共通する悩みが多いように思います。複合材料のリサイクルに関しても、それまで弊社ではまったくやったことがなかったのですが、問い合わせを受けてやってみよういう感じでした。

古賀:萩原工業らしいですね。まさに創業者の理念を体現されています。

笹原:創業者の口癖が「おもしれぇ 直ぐやってみゅう」(岡山弁)なので、面白いと感じたことはすぐやってみるという社風なんですよね。

古賀:一言で複合材料とまとめていますが、正確には二種類ありますよね。まずは種類の異なる複数のプラスチックが組み合わされたプラスチック多層素材、そしてプラスチックだけでなく、紙やアルミニウムなど異素材が込み合わされた多層素材ですが、やはり異素材の分離が一番の課題だったのでしょうか。

笹原:技術的には、異素材の分離というのは非常に難しいですね。前回の記事で、1986年からドイツの濾過装置メーカーと提携して機器の国内販売を行っており、その濾過技術を用いたプラスチックのリサイクル装置を作っていた話をしましたが、異素材の分離に関しては、樹脂の溶融温度差を利用した濾過装置による分離を挑みました。しかし、その構成比率によっては押出量に対する濾過面積が不足したり、過大な濾過面積による樹脂滞留によって樹脂が劣化したりするなど、多くの課題がありました。
試行錯誤を続けるなか、時代と技術は進歩するもので、提携ドイツメーカーから、新型のロータリー式分離装置でヨーロッパの飲料用アルミ付き紙パックのリサイクルを試みたところ、ポリエチレンと紙、アルミニウムを分離させることに成功したという報告を受けたのです。

古賀:これまで廃棄処理せざるを得なかった飲料用アルミ付き紙パックから、ポリエチレンと紙、アルミニウムを分離できたのはすごい成果ですね。そこからさらに技術開発を進めているのでしょうか。

笹原:現在は、当社においても同濾過装置を用いたテストラインの準備中で、2024年2月頃に試験稼働の予定です。ゆくゆくはアルミを製品原料に戻せるレベルまで、分離技術を引き上げたいと考えています。
これに加え、融点の異なる樹脂分離にもチャレンジしていきます。まだ技術開発中ですので、これからさらに分離の精度を上げていく予定です。

近赤外線を用いた装置の開発で、脱臭も実現

古賀:これからさらに取り組まれるのが、分離させたプラスチックの脱臭の研究ですね。食品の包装容器をリサイクルするには、有機物のにおい残りの問題があります。一例として、海外では牛乳がプラスチックボトルに入っているものも多く、脱臭ニーズが高いと聞きます。

笹原:ひとまず異素材分離の技術開発にも着手したので、そこから生まれたプラスチック原料をさらに高品質にしようという試みです。おっしゃるとおり、牛乳などのにおいの強いものに使用されていた素材は、原料にしても結構気になるんですよね。そのため、リサイクルの用途が限定されていました。それをどうにかしたいという声があったので、じゃあ今度は脱臭に挑戦しよう、と。

古賀:既存装置をさらにアレンジされたのですね。どのような機能を搭載したのでしょうか。

笹原:提携ドイツメーカーが、近赤外線乾燥装置を作っているのですが、その装置を使った脱臭技術開発が現在進んでいます。樹脂を近赤外線で加熱・乾燥させることで脱臭を狙うのですが、さらに水を噴射する装置を同時に使用することで、急激に気化させ、脱臭効果を向上させる研究を行っています。

古賀:私も脱臭実験後のプラスチックのにおいを嗅いでみましたが、感じるにおいが減少しているのがはっきりわかりました。

笹原:この研究がさらに進めば、リサイクル原料からの脱臭も可能になるのではないかと考えています。

多方面からのリサイクルニーズに応えていきたい

古賀:ヨーロッパでは、わりとリサイクル原料の脱臭技術が認知されているようなのですが、日本はこれからですね。ただ、多くの企業から萩原工業への問い合わせが増加しているのを見るに、ニーズは確実にあると思います。

笹原:そうですね。研究の情報を公開していると、それぞれの会社がリサイクルの悩みを抱えているのを実感できるので、それに応えていくと、結果的に今回のような新たな技術開発につながると考えています。
プラスチックの海洋汚染の問題が注目されるようになってから、プラスチックは一躍悪者になってしまいました。しかし、長年プラスチックにかかわる企業として、これほどまでに有用なプラスチックを悪者にしたくないわけです。製造過程での工夫やリサイクル利用など、作り方や使い方によって、プラスチックをもっとよい方法で活用できるはず。私たちはそう信じて、技術開発に誠心誠意取り組んでいるのです。

古賀:まさにその通りだと思います。我々三井物産プラスチックも、長きにわたってプラスチックを広めるための活動をしてきました。今こそ商社の情報力、販売力を活かし、力を合わせてプラスチックリサイクルの技術を広め、浸透させていきたいと考えています。
今回ご紹介しました萩原工業が注力している技術や装置を活かして、今後もさらに異素材分離を発展させていきたいですね。

笹原:私たちができるのは技術開発なので、一社だけでできることは限られています。ぜひ商社のネットワークをフルに活用いただいて、今後もプラスチックリサイクルやバイオプラスチック、生分解性プラスチックなども社会に広めていってもらいたいです。

PROFILE
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萩原工業株式会社 笹原義博
特命役員 環境事業推進室 室長。1983年入社。入社以降、エンジニアリング部門にて長く機械製品事業に従事。2015年から2022年まで取締役として、機械製品事業及び合成樹脂加工製品事業の運営を管掌。現在、特命役員として環境事業の推進をミッションとし、同社リサイクル技術の国内外への展開に尽力中。

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古賀晋一
産業材料本部 バイオ樹脂ユニット長。1999年入社。ポリエチレン、ポリプロピレンをはじめとする各種合成樹脂原料、包装・物流・農業生産資材などの合成樹脂製品、硫酸・過酸化水素などの無機化学品原料を経験。本店、北海道支店、三井物産(香港)有限公司、四国支店などの勤務を経て、2019年10月1日付で新設されたバイオ樹脂ユニットにて、来たる脱炭素社会の実現に向けたバイオマス、リサイクル、生分解の各種材料・製品分野に従事。

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