素材を知る2026年6月8日
橋梁伸縮装置の漏水。その原因と止水補修の正解とは【NEXCO中日本様 採用事例】

橋梁の定期点検や維持管理の現場で、こんなお悩みはありませんか?「伸縮装置のまわりから雨のたびに漏水が発生する」「補修しても数年でまた同じ問題が起きる」こうした橋梁伸縮装置の漏水トラブルは、全国の道路管理者・高速道路保全担当者から非常に多く寄せられる声です。漏水をそのまま放置すれば橋梁全体の劣化が加速し、最悪の場合は伸縮装置本体の全交換という選択肢を迫られます。1箇所の交換工事には数百万円程度のコストがかかるケースもあり、維持管理予算への影響は無視できません。
本記事では、橋梁伸縮装置からの漏水が起きる根本原因と、止水機能を回復させる具体的な工法などについて、三井物産プラスチックでダウ・東レのシリコーンシーリング材を担当する片寄(かたよせ)と小山が詳しく解説します。
目次
橋梁伸縮装置からの漏水:現場で頻発している問題の実態
止水材(シール材)の劣化が漏水の主因
橋梁伸縮装置の漏水原因として真っ先に思い浮かぶのは、「装置本体の損傷」ではないでしょうか。しかし小山は、「現場での調査では、漏水の多くは伸縮装置本体の機能低下ではなく、装置の遊間部に充填された止水材(シール材)の劣化・損傷によって引き起こされている」と言います。
そもそも止水材は、遊間部(橋梁の桁が熱膨張・収縮するために設けられた隙間)に充填され、雨水や異物の浸入を防ぐ役割を担っています。しかしこの材料が劣化すると、どれだけ伸縮装置本体が健全であっても、漏水が発生するのは明らかです。
実際、現場の担当者が口を揃えるのは「伸縮装置本体は壊れていないのに、水が漏れている」ということ。さらに片寄によると、「伸縮装置の不具合の実態として、9割近くが止水機能の破綻によるものであり、装置そのものが機能不全に陥っているケースは少数」とのこと。
これが意味するのは、「本体には問題がないのに、漏水が深刻化して、仕方なく本体ごと交換した」という事例の多くが、止水材だけを交換・補修すれば防げた可能性があるということです。
従来の有機系止水材の限界:「せりあがり」が引き起こす連鎖的劣化
このような状況を生む原因について、小山はこう語ります。
「これまで橋梁伸縮装置の止水材として広く使われてきたのは、ポリブタジエン系をはじめとする有機系シーリング材です。この素材は施工性とコストの面では優れていますが、長期耐久性の観点からは次のような弱点があります」
- 紫外線による表面硬化・亀裂:有機系材料は紫外線劣化(UV劣化)が起きやすく、表面から徐々にひび割れが進行します。これは有機系材料が抱える最大の課題です。
- 高温時の軟化・「せりあがり」:夏季の路面温度は60〜70℃に達することもあり、そんな高温下では橋梁の桁は膨張し、遊間が狭まります。その圧力を受けた多くの有機系止水材は逃げ場を失い、路面上に押し出される「せりあがり」現象が発生します。
- タイヤによる引きずり・脱落:せりあがった止水材は路面に突出した状態になります。そこを車両のタイヤが繰り返し踏むことで、止水材ごと引きずり出されて脱落。止水材が消失した状態となり、結果的に漏水を引き起こしてしまいます。
- 繰り返し変位による接着面の剥離:このように、橋梁は気温変化のたびに伸縮を繰り返します。追従性の不足した止水材はこの変位に耐えられず、躯体との接着面が徐々に剥離してしまいます。

止水材(シール材)のせりあがり
こうした劣化が進むと、止水材が露出・突出した状態になり、さらには硬化・固着して除去が困難になるケースも。そうなると、新たな止水材を充填したくてもできない状況に追い込まれ、やむなく伸縮装置本体の交換という高コストの選択肢を選ばざるを得なくなるそうです。
「この段階に至る前の早期対応が、コスト最小化の鍵であることを、みなさんにぜひ知ってほしいですね」と片寄は語ります。
漏水を放置した場合の二次被害:床版・支承・下部工の腐食
このような状態を放置すると、止水材の劣化という「一次被害」にとどまらず、橋梁全体に深刻なダメージが広がります。なぜなら雨水が遊間から浸入すると、その水は塩化物(融雪剤由来の塩分を含む場合も多い)とともに、桁の端部・支承・下部工(橋脚・橋台)へと流れ込んでしまい、以下のようなリスクにつながるためです。
- 鉄筋の腐食:コンクリート内部の鉄筋が錆び、コンクリートが剥落するリスクが生じます。
- 支承の腐食・機能低下:鋼製支承が錆びると桁の変位を適切に吸収できなくなり、構造的な問題に発展します。
- 下部工(橋台・橋脚)の劣化促進:水が継続的に浸入することで、コンクリートの中性化・塩害が加速します。
小山によると、「橋梁において、床版(路面の板)が劣化しても修繕は可能です。しかし橋脚・橋台といった下部工は、最優先で保護すべき構造です。水を直接これらにさらすことはできる限り避けなければならない」とのこと。これが伸縮装置に止水機能が求められる根本的な理由だと語ります。
実はこれらの二次被害が進行した場合、致命的な問題となり、補修費用は止水材補修の数倍〜十数倍に膨れ上がります。したがって、早期の止水補修は単なる「漏水止め」ではなく、橋梁全体の長寿命化と維持管理コストの最小化につながる重要な投資だと言えるでしょう。

止水機能の回復:シリコーン系シーリング材を選ぶ理由
シリコーン系 vs 有機系:性能比較
このような課題が浮き彫りになるなか、止水材の素材選定において、近年注目を集めているのがシリコーン系シーリング材です。
「従来の有機系(ポリブタジエン系など)と比較したとき、橋梁・インフラ環境における耐久性に、大きな差が生まれることがわかっています」と片寄。最も重要な違いは素材の性質そのものにあると言います。つまり、有機系材料は紫外線によって化学的な劣化が起きやすい性質を持つ一方で、シリコーンは無機系の性質を持っているため、紫外線劣化によるひび割れが原理的に起きにくい。そしてひび割れが起きなければ、漏水への経路が生まれにくい ——これが、シリコーン系止水材の本質的な優位性だと言います。
<有機系とシリコーン系の性能比較>
| 性能項目 | 有機系(ポリブタジエン系など) | シリコーン系(DOWSIL™ 902RCS) |
|---|---|---|
| 耐紫外線性 | △ UV劣化が起きやすくひび割れの原因に | ◎ UV劣化によるひび割れが原理的に起きない |
| 耐熱性(夏季) | △ 高温時に軟化→せりあがり→タイヤで脱落 | ◎ 高温下でも安定。夏場のせりあがりなし(実証済み) |
| 耐寒性(冬季) | △ 低温で硬化・追従性が低下 | ◎ 低温時の性能変化が少ない |
| 伸縮追従性 | △ 繰り返し変位で剥離しやすい | ◎ 最大応力時伸び 1,720% |
| モジュラス(剛性) | 比較的高め | 低モジュラス 0.1N/mm²(躯体への応力小) |
| 施工性 | ○ 一般的なガン施工 | ◎ 流動性高く充填容易・へら仕上げほぼ不要 |
| 硬化時間 | 製品による | ○ 指触乾燥12分・養生完了 約60分 |
「上記の表で、特に注目してほしいのが『伸縮追従性』」と小山。「伸び1,720%」という数値は、橋梁の温度変化による桁の伸縮動作に対して、止水材がいかに柔軟に追従できるかを示しています。このように、有機系材料と比べて格段に高い追従性を持つことで、接着面の剥離や亀裂発生を大幅に抑制できるというわけです。
2成分形・急速硬化で交通規制時間を大幅に短縮するDOWSIL™ 902RCS
この「DOWSIL™ 902RCS」の大きな特長として、工期短縮という側面があります。というのも、橋梁補修工事における最大の制約のひとつに「交通規制時間」があるためです。高速道路での規制時間は夜間数時間に限られることも多く、施工から養生完了・交通開放までを可能な限り短縮することが求められます。その点、「DOWSIL™ 902RCS」は2成分形シリコーンシーリング材であり、主剤(Part A)と硬化剤(Part B)を専用充填ガンで1:1に混合することで、急速に硬化が始まります。
「DOWSIL™ 902RCS」の所要時間の目安
- 指触乾燥:約12分
- 養生完了・交通開放の目安:約60分
たとえば1箇所だけ緊急補修したいときなど、大規模な全面工事を組めない状況でも、コーン(保安施設)で車線を一時的に止めてシーリングを充填し、1日で撤収できる——この機動性が、現場担当者から高く評価されていると、小山は語ります。すぐできるのに材料の質も高い。この両立こそが最大の魅力なのです。
なぜ今、この補修工法が注目されているのか
片寄によると、このようなシリコーン系シーリング材による伸縮装置止水補修が急速に広がっている背景には、以下のような道路管理者側の方針転換があるとのこと。
「まず直す」という維持管理方針への転換
従来、止水材が劣化した場合の対応は「伸縮装置本体ごと交換する」というものでした。しかし近年、NEXCO様をはじめとする道路管理者の間では、既存の伸縮装置を活かしたまま止水機能を回復・延長させるという考え方が広まりつつあります。簡単に交換するのではなく、既存のものを可能な限り活用し、止水機能の回復が見込めるうちに補修しなさいという方針です。維持管理コストの増大・交通規制への社会的負担を無視できなくなってきた時代の要請でもあります。
5年に1度の近接目視点検義務化:まったなしの対応が求められている
2014年の道路法改正により、橋梁の5年に1度の近接目視による定期点検が義務化されています。点検によって損傷が発見された以上、放置は許されません。修繕計画に組み込み、順次補修していく必要があります。しかも、点検で発見される損傷の中でも、伸縮装置の止水材劣化は頻度の高い指摘事項のひとつです。この義務化が、補修需要を押し上げる大きな追い風になっています。
「イージーリペア」としての価値:1日で補修・撤収できる機動力
シリコーン系シーリング材による止水補修は、「イージーリペア(簡易補修)」として現場に受け入れられています。これは、急速硬化・短時間養生という特性が、交通規制時間の短縮という発注者・施主の最大の関心事に直接応えているため。大規模な全面交換工事と異なり、1箇所だけ補修したい・夜間の限られた規制時間内に完了させたいといったニーズにも対応できる柔軟性が、採用を後押ししています。
「DOWSIL™ 902RCS」による施工の流れ
では、実際にシリコーンシーリング材を採用するにあたり、どのような流れで施工するのかが気になるところです。
小山によると、ダウ・東レの「DOWSIL™ 902RCS」を使った伸縮装置止水補修は、以下の5ステップで完結するということです。特別な作業習熟度は必要なく、専用充填ガンを使用することで現場担当者が対応できるのが強みです。
Step 1:ケレン(旧止水材・さびの除去)
最初の工程は、遊間部に残存する旧止水材・さび・油脂などを除去する下地処理です。
1種ケレン(ブラスト処理)が推奨されますが、最低でも2種ケレン(電動工具による研磨・除去)が求められます。
この下地処理の品質が、新しい止水材の接着性に直結します。ケレンが不十分なまま充填すると、早期剥離の原因となるため、丁寧な作業が求められます。
鋼材面は、最低でもさびを除去した状態とし、可能であれば金属素地が出る状態を目指してください。
Step 2:バックアップ材の挿入
次に、遊間底部にフォームポリエチレン製のバックアップ材を押し込みます。バックアップ材には2つの重要な役割があります。
充填深さの規制:シーリング材の使用量を最適化し、コストを抑えます。
三面接着の防止:底部への接着を断ち「二面接着」にすることで、遊間変動時の応力集中を防ぎ、シーリングの伸縮追従性を確保します。
また、バックアップ材のサイズは遊間幅よりやや大きめ(幅+10%程度)を選定し、遊間口から10〜15mm程度の深さに固定するのがポイントです。
Step 3:プライマー塗布(DOWSIL™ Primer-B)
バックアップ材の挿入後、シーリング材を充填する前にプライマーを塗布します。プライマーは接着性を確保するための前処理剤です。コンクリートや鋼材の表面の微細な孔をプライマーが塞ぎ、シーリング材がしっかりと密着するための土台を作ります。刷毛で薄く均一に塗布した後、完全に乾燥するまで待ちます(目安:気温20℃で30分〜1時間)。なお、乾燥不足のまま充填すると接着不良の原因になるため、乾燥時間は必ず守ってください。
Step 4:DOWSIL™ 902RCSシーリング材の充填(専用ガン使用)
専用充填ガンに「DOWSIL™ 902RCS Part A/B(ソーセージタイプ591ml×8個入)」をセットし、充填を開始します。A/Bが1:1の比率で混合されることを確認してから本充填に入ります。
使用感としては、流動性が高いため目地への流し込みが容易で、へら仕上げはほぼ不要です。充填後は表面を軽く平滑にならす程度で施工が完了します。ちなみにマスキングテープはシーリングの硬化が始まる前(指触乾燥後すぐ)に剥がします。
Step 5:養生・交通開放(目安:約60分)
充填完了後、約60分の養生時間で、交通開放が可能な状態になります。この短い養生時間が、夜間工事・交通規制短縮を実現するポイントです。
注意点としては、養生中は降雨・汚染を避けること。なお、気温が低い冬季は養生時間が若干延びる場合があります。そのため、現場の気温・湿度に応じて確認してから開放判断を行ってください。
採用事例:中日本高速道路での施工・追跡確認結果
施工のしやすさだけでなく、実績面でも信頼性は裏付けられています。
「DOWSIL™ 902RCS」は、実際の高速道路現場で複数の採用実績があります。最初の採用は中日本高速道路株式会社様 飯田保全区(中央自動車道・交通量が比較的少なく試験的な施工に適した場所)でのトライアルから始まり、良好な結果をもとに採用現場が広がっています。
事例①:千人塚高架橋(2024年12月施工)
発注者:中日本高速道路株式会社様 飯田保全区
2024年12月に実施された伸縮装置漏水対策工の事例です。施工の流れは以下のとおりです。
- ケレン(2種)で旧止水材・さびを除去し、良好な下地を確保
- フォームポリエチレン製バックアップ材を遊間底部に挿入
- 「DOWSIL™ Primer-B」を鋼材面に塗布・乾燥
- 専用充填ガンで「DOWSIL™ 902RCS」を充填。流動性の高さにより短時間で充填完了
- 養生完了まで約60分。指定時間内で安全に交通開放
片寄によると、「施工後の状態は良好で、充填材が遊間内に均一に充填され、止水機能が適切に回復されたことが確認できている」とのこと。
事例②:南大島高架橋(2024年11月施工・10ヶ月後追跡確認)
発注者:中日本高速道路株式会社様 飯田保全区
2024年11月9日に施工を実施し、約10ヶ月後の2025年8月9日に現地での追跡確認を行いました。
確認結果:「夏場のせりあがりなく良好」
この結果について、片寄は「夏季の路面温度が最高レベルに達する8月においても、充填したシリコーン系シーリング材が遊間から飛び出す「せりあがり」現象が発生していないことが確認されました。これは従来の有機系止水材で課題となっていた高温時の膨張・突出問題が、シリコーン素材の特性によって解消されていることを実証する結果です」と説きます。
施工から10ヶ月が経過しても止水材が安定した状態を保っており、長期的な止水機能の維持が期待できることが現地確認で裏付けられました。
まとめ:伸縮装置の止水補修で早期対応が重要な理由
近年のトレンドとして、高速道路の伸縮装置の補修にはシリコーンシーリング材が採用されていることをご紹介してきました。最後に、本記事のポイントを整理します。
伸縮装置の止水補修の課題
- 漏水の主因は止水材の劣化。伸縮装置本体を交換しなくても、止水材の補修・更新だけで漏水を止められるケースが多い(本体交換1箇所あたり数百万円程度のコストが節約できる可能性)
- 有機系止水材の「せりあがり→タイヤ脱落」という劣化メカニズムに対して、シリコーン系はその性質から根本的に対抗できる
- シリコーン系シーリング材は耐候性・耐熱寒性・伸縮追従性のいずれにおいても有機系を大きく上回り、長期的な止水機能維持に適している
ダウ・東レのシリコーンシーリング材の特長
- 「DOWSIL™ 902RCS」はNEXCO試験法409・438に合格しており、高速道路・公道橋梁の発注仕様を満たす製品として信頼性が実証されている
- 急速硬化(指触乾燥12分・養生60分)により夜間工事・交通規制短縮への対応が可能。1日で補修・撤収できる機動力が評価されている
- 中日本高速道路株式会社様の複数橋梁での採用実績あり。施工後10ヶ月の追跡確認でも良好な状態を維持(自社担当者による現地検証済み)
本製品を担当する片寄・小山は、「伸縮装置から漏水が止まらない」「補修材の選定で迷っている」「NEXCO仕様を満たした製品を調達したい」という担当者の方に、ぜひDOWSIL™ 902RCSを試していただきたいと語ります。以下の問い合わせフォームからまずはご相談ください。
片寄 一郎
三井物産プラスチック株式会社
2019年に三井物産プラスチック株式会社入社
前職は大手化学メーカに勤務し主に建築土木用のシーリング販売に携わる。
現在、土木インフラ市場の調査ならびに商材拡販を展開中。
小山 司
三井物産プラスチック株式会社
営業第4部門 国内ネットワーク推進事業部 産業インフラ材料グループ
建設市場、土木・インフラ市場へのシリコーンシーリング材販売に従事。
インフラ市場向けシリコーン提案の中心として取り組み中。




